After Dark

 手持ちぶさたなんです。
 そう言って、因幡さんはあたしの鞄を持ってくれる。手持ちぶさたになったあたしは、この間完成させたばかりの手編みの手袋やマフラーをいじりながら因幡さんのお話に耳を傾ける。
 手袋は、五つ指のものをつくろうと思ったのだけれど、難しくてミトンに途中で変更した。残念。ほんとうは因幡さんにあげようと思って編み物の本を買って、だけど因幡さんはうさぎのぬいぐるみを着ているから、手袋もマフラーもいらないのだと気付いた。仕方ないから、因幡さんの着ぐるみとおそろいの色の毛糸を買って、ちょっとしたペアルックを気取ることにした。因幡さんがお似合いですよ、と言ってくれたことがとても嬉しかった。あたしが作ったのよ、と言うと因幡さんは、すごいですね、しのぶさんは本当に家庭的だなあ、と褒めてくれた。
 夜道は危険ですから。
 そう言って、因幡さんは毎放課後あたしを迎えに来てくれる。あたしを抱え時空移動をして、亜空間を通り近道する。時空音痴気味な因幡さんはたいてい道に迷って、帰宅する時間は夜半過ぎになることもしばしば。あたしは因幡さんと一緒に、亜空間の、木々の乱立する蒼い森で夜の散歩を、あっちでもない、こっちでもない、と迷いながら歩むことがとても好き。
 因幡さんはあたしの家の前まで来るといつも、こんなに遅くなってしまってすみません、と言う。今度からは三次元の道をちゃんと通りましょう、と肩を落とすのをあたしは必死で止める。
 暗くなったあと。この時間を、あたしは何よりも大事に思っている。

(三代目top絵)

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