不幸な女の与太話


ちょっとお〜、アンタ達、ちゃんと聞いてるのおおおおおおっ?
なによ、その溜息はっ!バカにしてんの?

あっ、ちょっと、なにすんのよ!
飲みたいんだったら、自分で頼みなさいよ!
ホラ、店員、そこにいるじゃない。
おにーさーん!すみませーん!注文したいんですけどお〜!

え?違う?飲みたいんじゃない?
じゃーなんなのよ、なんであたしのビール取るわけ。

あああああ!うるっさいわね!
これが飲まずにやってられますかってのよっ!

そうそう、だから、
って、ちょっと!!面堂くん!
どこ行くつもり?

え?門限?
あーはいはい。そーでした、そーでした。
面堂家のおぼっちゃまは、門限がお厳しゅうござーましたね。
はいはいはいはい。
ドーゾドーゾ、可愛い可愛い奥様の元へ、お帰りになってくださいませえ〜。
こおお〜んな、オバサンでみっともない大トラ女なんかの愚痴聞いてるより、ずううっと……なによっっっ!汚い手で触んないでよ!
まあまあ、じゃないわよ!もとはといえば、あたるくん!あんたのせいじゃないの!!

どうしてですって?
わからないの?あっきれた!
そう、それじゃあ、あたしが、どうしてこう不幸なのか、じっくり教えてあげるわよ。
ほら、面堂くんもちゃんと椅子に座る!
いつまでもチマチマ、携帯なんかいじってんじゃないわよ。女々しいわね!
ラム!竜之介くん!
あんた達も聞くのよ、ちゃんと!
うへえ、じゃないの!まったく。

そう。まず始まりがいけなかったのよ。

だからっっっ!これから話すって言ってんでしょーがっ!
ちゃちゃ入れんじゃないわよ、もう。
男なら、黙って女の話聞いたらどうなの。
そんな調子じゃ、家でちゃんとラムの話聞いてあげてないでしょう。
そこんとこどう?ラム。

え?あ、そうだったわね。
ええ、ええ。話すわよ。ちゃーんろ。じゃなかった、ちゃーんと。

こほん。
ことの始まりは、あたるくん。あんたよ。おわかりでしょーけど。
そもそもね、相手がバカでセコくてスケベな女好きの、世界中探しても他に類を見ないほどの浮気者だったってのがイケナかったのよ。
そんな相手が恋人に適してるわけないじゃない。

でしょう?面堂くん。わかってくれるのね。
え?ダーリンは世界中探しても類を見ないほど素晴らしい人だって?
あのね、ラム。あんたは違うの。フツーじゃないんだから、あんたは。
どう違うかって…。
ああああ!とにかく違うの!あんたはフツーじゃない!おしまいっ!

だあ〜かあ〜らあ〜。なんであたしが、あたるくんとつき合ってトラウマになっちゃったか、説明しよーとしてんじゃないのっ。うんそう。トラウマ。
今はとりあえず、他のことはどーでもいいわけ。どーでも。

あたるくん、あたしたちが幼馴染みから恋人になったのがいつか、覚えてる?

えっ?違うわよ。
えっえっえっ。
そりゃあんた…。うう〜ん。ちょっとここでは言えないわね。
あ、ラム。聞きたいなら、あとでたあ〜っぷり教えてあげるから。うん、たあ〜っぷり。

なに青くなってんの、あんたは。
ばっかじゃないの。

うん。そう。
ばかなの。あたるくん。
すんごい笑い話なんだから。あとで笑いましょう、ラム。
で!
それはいいんだけど。
あたるくんのせいで、あたしの恋の迷走が始まったっての。ね?
そりゃね、あたしも若かったの。青かったの。恋に恋してたの!悪いっっ?

あら、ごめんなさい。興奮しちゃったわ。
いやだ。竜之介くん、顔に枝豆のサヤついてるわよ。
うん。ごめん。あたしのせいね。これ使って。ハンカチ。
いいわよ、遠慮しないで。さささ。使ってったら。

なにモジモジしてんの…あっ!そうか。
そーゆーことか。わかった。わかったわ。
あとで竜之介くん。あなたのこともキッチリ!話してあげるから。
ふふん。なによ、いつのまにか渚さんと、ぼこぼこぼこぼこ、9人も子供つくっちゃって。
野球チームでもつくるつもりかっつーの。

それよりさっきの続きが聞きたい?
あら。相変わらずフェミニストなのね、面堂くん。女には優しいのね。
ん?なにギクっとしてるのかしらね?面堂くんったら。
うふふ。安心して。あなたのことだってちゃーんと………え?ええ、話すわよ。
まずはあたるくんよね。
そう、あたるくん。
さっきも言ったけど。あのね、あたし、恋に恋してたのよ。それは認める。
手ぇ繋いで登下校したりとかしたかったのよ、少女漫画みたいなヤツ……え?そりゃ小学校からやってたって?
ああ、そうね、そうだったわね。
えーと、ほら。運動会のハチマキ。
交換するのって、伝統だったわね?卒業式で第二ボタンもらうのと、おんなじくらい。ううん、それよりもっとかもね。
だって、一方的にもらう、あげる、じゃなくって。交換だもの。
え?あのハチマキとボタン?
当然捨てたわよ……というか、捨てる前になくしちゃったっていうか。
い、いいじゃないのよ。そんなことは。
どーせアンタだってそーでしょーが。

ホラ見なさい。
女と男じゃ違う?一緒よ、一緒!
うるさいわね。あたしの部屋は、いたってキレイよ。昔から。
き・れ・い・な・の!

でね。ほかにはさあ、交換日記とか?
うん、そう。あんた、一回しか書いてこなかったわね、アレ。
しかも「○月△日 晴れ。しのぶ、キスしてみたいと思わんか」だけ。どこが日記よ。ばかじゃないの。ホントに。
そーでしょそーでしょ?あっはっはっ。
ばっかばっか。ホントにバカ。
面堂くん、大丈夫?息、苦しそうよ。というか、地べたじゃなくて椅子に座りなさいよ。

あーそれもそうね。うん。確かに。
かわいいなあ、と思ったわ。あんときも。うん。
だからって調子にのるんじゃないわよ。あたるくん。この手はなによ?
ラムも電撃やめなさい!他の客に迷惑だから。
それで。
でもね、かわいくないのはさあ、あたるくんったら、自分用に日記つけてたのよ?それなのに、交換日記は全然なんて…え?今でもつけてるの、日記?
へえええ〜。

面堂くん、いい加減、笑い止みなさいよ。大人げない。
ここにいるメンバーの知らない面堂くんの話だって、してあげてもいいのよ?うん?
うふふふふ。顔が灰色よ、面堂くん。
そりゃそーよね。ラムの前であーんな話されちゃ、たまったもんじゃないわよね?いつまでたっても、ラムには。んね?
うっふっふ。ダイジョーブよ。飛鳥さんには言わないでおいたげるから……って、いやだあ、あたるくん。
そんな、これ見よがしに不機嫌にならないで……はいはい。そういうことにしといてあげるわ。

ちょっと、竜之介くん!
なに寝てんのよ!
自分は安全だと思ってるのね?
安心しなさい。あたるくんの次の次があなたなんだから。ね?

さて。話を元に戻しますか。
カンベンしてって。しないわよ。ええ。しない。

さてさて。恋に恋したしのぶちゃんが交換日記の他にしたことといえばね。
電話よ。
うん。電話。
ほらさあ、今と違って、昔って携帯電話なんて便利なもの、なかったじゃない?
だから、電話するとなると、オウチの電話になるわけよ。ね。
でさ、そーゆー電話に限って、オカーサマだのオトーサマだのが出るのよね。
あれ、なぜかしらね。何時に電話かけますって、ちゃんと約束してるのにね。
そうそう。あたしもよく玄関に居座って、電話が鳴るのを睨みつけて待ってたもんだわ。懐かしいわねえ。
「邪魔よ」ってお母さんに怒られたり。あとね、長電話。
母親って、自分こそダラダラ長電話するくせに、子供がしてると、すっごく怒るのね。
電話してる隣りに寄ってきて「早く切りなさい」なんて、ね。そんでもってちゃっかり、子供の会話、聞こうとするのよね。うふふ。
で、ずっといつまでもしゃべってたいんだけど、家の電話だから、そうそう長くも電話していられないわけじゃない?
だから、メモをつくっとくの。電話メモ。
電話をかける前に、これをしゃべろう、あれをしゃべろうって。
電話での沈黙が、怖かったのよ、昔は。ああ、懐かしい。
あの沈黙、今ならけっこうスキなんだけど、ねえ?本当に恐ろしかったわ。
でもねえ。メモ通りになんていかないのよね。当たり前だけど。
うんそう。結局、沈黙ってできちゃうの。
あとはさ、メモったこと全部話さなきゃって焦っちゃったりして。たいしたことでもないのに。一通り。バカよねえ。
ひとつひとつの話題が、中身すっからかんで通り過ぎてくの。最後には自分でも何言ってんだかわかんなくなっちゃって。

今の子は可哀想ね。ああいうドキドキとか、ないのね。きっと。
ええ、電話メモやってる子は、今でもいるかもしれないけど。でもそれって、だいぶ古風だわね、その子。

このベル音は、誰からの電話だろう、とか。携帯なら、ディスプレイされちゃうもの。だれだれですう〜って。ロマンの欠片もないわよ。
携帯じゃなくてもそうか。ナンバーディスプレイ。
便利すぎて、可哀想だわ。
そりゃ、待ち合わせは格段に便利だけど。
でも、ねえ?いつでも連絡がとれるなんて、ねえ?自由がないわよ。ぜんっぜん。
息苦しいったらありゃしない。

あら?何か言いたそうね?あたるくん。

そうですとも。
交換日記に、毎週火曜日と金曜日の夜の電話。
軍隊みたいな規則を強いたのは、このしのぶちゃんですとも。
毎日学校で顔あわせるってのにね。ちっちゃい頃からずっと一緒だったってのにさ。
よーやるわってもんよ。それも、あたるくんなんか相手に。
ふふん。なんかよ、なんか。あたるくんなんて。
ねえ、だってあたしがこんな、バカみたいなさあ。こんなこと思いついたのって、あたるくんのせいなんだから。

なんでって。わからない?
束縛してなきゃ、飛んでっちゃいそうだったんだもの!あなたは!
いつも女のあと追いかけ回して!
あたし、幼馴染みから恋人に昇格した実感、全然なかったわよ!
(…キスも、結局、しなかったし)
え?何も言ってないわよ。
というかですね。好かれてるのかどうかも怪しいもんだったわね。ええ。

だからですね。
実に画期的で合理的だと思ったわけですよ。
必ずコンタクトのとれる交換日記と電話を、義務づけるのはね。
その、ほら。うん。
幼馴染みから恋人……ってね?
あたるくんは全然だったみたいだけど、急にそーいうことになっちゃうと。
んんん。急じゃないって言われればそうかもしれないけど。
でも長い間、ずっと幼馴染みだったわけだから。繊細な乙女心としては、ね。繊細な。
なんだかミョーに気恥ずかしくって、顔を合わせてだと、マトモにしゃべれなくなっちゃったわけよ。
ドキドキしちゃって。青春だわね。
そう、あたるくんなんかを相手に。
で、だから。直接顔を合わせなくて、ちゃーんとこっちの意思を伝えられるのが、交換日記と電話だったわけ。

それのどこが合理的だって、そりゃよくわかんないけども。あの頃はそー思ったの。
顔合わせないで何が恋人だって、そりゃそーでしょうけど。
あのね!あたしはあんたと違って繊細だったの。
廊下ですれ違うときとか。あたるくんの側にコースケくんだとか、事情を知ってる男の子がいて。あたしの側には、これまた事情を知ってる女の子がいて。
あの、微妙な雰囲気っていうの?ぼく達わたし達はわかってますよーっていう目で見られるというか。期待されてるというか。
いたたまれないじゃない?
あたるくんは違うんだろーけど。
ええ、ええ。そーでしょーとも。

ちょっと!今、竜之介くん、なんて言った?
めんどくさい女ですって?
そりゃどっちよ!
竜之介くんほど、めんどくさい相手はいなかったわよ!覚えてなさい。
ちゃんとバラしてあげるんだから……ふっふっふ。
今頃泣きついたって、ム・ダ・よ。

あらっ。
面堂くんはわかってくれるのねえ〜。さすがねえ。
それなのに、あたるくん!あんたは全然!

じゃーおれの意思はどうなるんだって?
そりゃ……。そりゃ、悪かったわよ。
うん…わかってる。わかってる。
あたるくんの気持ちなんて、全然考えてなかったわ。あたしも。
あたしがあたしがって。
あたるくんがスキって気持ちより、あたしをスキでいてって思ってたのね。
まあね。自業自得ってのも、わかってるんだけど。

………。
って、あのねえ!
なんであたしが責められなきゃなんないのよっ!
だいたいねえ、あたるくんがもっとしっかりしてくれてたら、あたしがそんなことする必要もなかったんでしょーが!
まったく!
そのせいで今度は、あたし、都合のいい女になっちゃって。

そう!
あたるくんのことがトラウマになっちゃって!
我ながら、なんてバカだったんだろうって、消え入りたくなるほど、後悔しちゃったわけよ。
もう絶対、相手を束縛したりしない!我が儘言わない!なんてね。
甘え方がわかんなくなっちゃったの。ぜえ〜んぜん。
今もそう!そう…あれからずっと。
だから…ね…。今回のも、そう、なのよ。
どうやって甘えたらいいのかなあって。あのね、甘えるのと我が儘のね、境界線が引けないのよ。
これってただの我が儘?とか思っちゃって。
なにも言えなくなっちゃうの。
そうすると、相手は、さ。愛されてない、とか。浮気してるんだろう、とか……。

……ん。平気。
ありがと。ラム。

やあだっ!
みんな、シーンとしちゃって!
もう、もう、もうっ!
みんな、やさしーんだからっ!

さあて、では、お次はあ〜。お優しい面堂終太郎くんとはですねえ。
ん?なにか言った?面堂くん?
しのぶさんの気のせいですよって?
ふうーん。へーえ。そーお。
ずっと泣いてりゃよかったのにって、ね。言ったわね?
残念ながらですねえ、聞こえてしまったんですねえ〜。
地獄耳ですからー。

そーよおー。
しのぶさんはですねえ。地獄耳なんですねえ〜。
聞いてしまったわけですよ、あの日。
お優しいお優しい面堂家のぼっちゃまの、とおおお〜んでもない失言を。
アレ、ねえ。友引高校の女子、今でもきっと驚くわよ。聞かされたら。
ん〜。驚くどころじゃないかも。
衝撃よねえ。青春時代の王子様が、そんなこと思ってたなんて!
夢が音をたてて、ガラガラと崩れ落ちるでしょうねえ。
ホラ、みんなもう、いい年じゃない?
だから余計に、思い出って美化されてるわけだし。高校時代って、すっごくすっごく宝物みたいになってるでしょうし。
ねえ〜。ショックよねえ〜。ウツクシー思い出を泥で塗りたくられるって。
今の面堂くんを恨みたくなっちゃうかもね?思い出の、あの素敵な面堂さんを返して、って。ね?

うわあ〜。
面堂くん、まっつあお。顔、青いわあ。大丈夫?
ん?なんて言ったか?
う〜ん。教えてあげてもいいんだけど……。
うふふふふ。面堂くん、久しぶりねえ、その「諸星、貴様!」ってヤツ。懐かしいわ。

そうそう!
ねえ、あたるくんも覚えてるでしょう。
なにかしらね、あれは。やたらねえ、あたしのこと庇ってくれたわよねえ。面堂くん。
なんだっけ?「しのぶさんは諸星には、もったいない!ぼくがもらう!」だっけ?
あれ?違う?そんなこと言ってない?
まあ、いいのよ。細かいことは。
そんなふうにねえ、庇ってくれたくせにねえ。ねえ?

面堂くん、気分が悪いんだったら、お手洗いに行った方がいいわよ。
吐きそうじゃないの。飲み過ぎたの?
平気なの?あらそう。

あのときってね、微妙だったのよ。うん。
あたるくんが思ってるよーな、そういうんじゃなかったの。
面堂くんったら、あたしのこと、酷くバカにしててね。
まあ、あんまり詳しくは言わないけど。モテる男の考えそうなことよ。
ラムに会うまで苦労したこと、なかったんでしょーよ。女も何もかも。お金持ちのおぼっちゃんだし。
あら?面堂くん。額に青筋が浮かんでるわよ。
どうしたのかしら?

とまあ。ちょっと言い過ぎたかしらね。
ごめんなさい。
え?おれにはもっと言ってたって?
違う違う。
面堂くんとあたるくんじゃ、違うのよ。
なにが違うって、とにかく違うの。

でね。
え?まだ続くのよ。
謝ったけど。でも続くの。ええ。

って、ラム、梅酒はダメ!
まったく。人が見てない隙に。

ダメったらダメ!
あんた、酔うと見境なく放電するんだから。
あたるくん、奥さんちゃんと見張ってないとダメじゃないのよ。
また弁償させられるわよ。

うん。聞いた。
この前も居酒屋で大暴れしたんですってね?ラム。
そんなことしてないっちゃって、ウソこけ。この野郎。

はっ。そうじゃなくて。
うんうん。違うの、ラム。
いい年してカマトトぶってんじゃねーよ、そりゃ天然じゃなくてスットボケのアホだろ、なんて思ってないから。泣かないで。
やだ。泣かないで。うん。思ってないない。
ホントにホント。
だってあたしとあんたとの仲じゃない?んね?

さてさて。
面堂くんのことねえ〜…。
なんかめんどくさくなっちゃった。面堂くん、面倒くさい。
なんちゃって。

ちょっと。笑いなさいよ。
竜之介くん。さっさとぶちまけて早く解散させてくれ、みたいな顔してるけど。
このままいくと次、あなたよ。
いいのね?

次行きましょうって面堂くん。
あなたも露骨な人ねえ。
やっぱり変わらないわよね、そういうのって。いざとなると、自分の方が大事なのよね?
ん?なにがって、聞きたい?ラム?
あのねえ、面堂くんってねえ…。

いやーね。そんなに慌てなくても、言わないわ。うん。言わない。
あなたが散々、都合のいいときだけ都合のいいこと言って、都合のいいことさせようとしたこととか。他の人の前とあたしの前じゃ、全然態度が違ったこととか。あたしが文句を言わないのをいいことに、というか、言う自由もくれなかったわね……。
結局言ってるじゃないですかって、言ってない。
まだまだ。全然。言ってない。
それともしゃべってほしいの?面堂くん。

そうよね。
あたしもいい思い出として、記憶の片隅にしまっておくわね。

ラム、だめよ。そんな目で面堂くんを見ちゃ。
とってもとってもナイーブで優しい人なんだから。本当よ。

そしてー次はー…。
じゃじゃーん!
お待ちかねの竜之介くんでーす。

竜之介くん?
なにをしてるのかしら?
あらあら、お手洗いに行くのね?ちゃんと「女子」トイレに行くのよ。
ええ、ええ。大丈夫。
今のあなたは、とびっきり女らしいもの。男に間違えられたりなんて、絶対にないわよ。
そのスカート、とっても似合ってるし。
あ、ハンカチはある?貸してあげましょうか――刺繍つきのハンカチ。

ん?行かなくていいの?お手洗い?
我慢は体によくないわよ。

おれがいない間に、何を言われるか怖い?
そうねえ〜。正直言って、一番恨…じゃなかった。思い出深いのは、竜之介くんかしらねえ。
でもね。竜之介くんのせいじゃないのよ、全然。
ええ。ホントに。
竜之介くんが、よりにもよって、オカマの幽霊と結婚したって。フツーの男ならまだしも、いかにも女らしーい男と結ばれたからって。だったら、女でよかったじゃないのって思ったとしても。ね?

本当にねえ?
あなたのせいじゃないの。竜之介くん。
この前の恋人がねえ。その子ね、すっごい竜之介くんにソックリなんだけど。というか生き別れの姉妹?いやいや、同一人物ってくらいソックリなんだけど。
うん。ぜーんぜん。竜之介くんのせいじゃないんだけどね?
よりにもよって、生粋のレズビアンですよ〜とか言っておいてさあ、ね?

あら?
面堂くん、知らなかったの?
さっきからおかしいと思ってたんですがって。
そうなの。あたしねえ、なんかバイセクシャルってやつみたい。
いや〜ん。改めて言うと、こう、なんかむずがゆいわねえ。

うん。そうそう両刀使いって、
いやだわ〜、面堂くん、ずいぶん俗っぽい言い方するのね?おぼっちゃまなのに?
あ、でもあたし、女ですからね。うん。ちょっとね。
へえ〜。でもあたし、面堂くんに言わなかったかしら?
言わなかった?ああそう。ごめんなさいね。謝る必要ないと思うけど。なんとなく。
うん。みんな知ってるわよ。ねえ?

えっ!!
ラムも知らなかったの?
あたし、言ったじゃない!昔。
ほら、恋人はいるのけ?ってあんた、聞いてきたでしょ。
そうそう。どんな人?って聞かれたとき。
「外見はねえ、竜之介くんによく似てるの。とっても可愛い子よ」って。
思い出した?

ええ〜?竜之介くんによく似た「男の子」だと思ってたの?
ああそう…。

それはいいんだけどね。
あのね!!
本当にヒッドイのよ!!
その子とはあ〜、別れたりヨリ戻したり。いろいろあったの。いろいろ。
でね!!
毎回別れる理由がね!
「わたしを竜之介って女の身代わりにしてるだけ」だの「しのぶはバイだから、どうせいつか男と結婚する」だのだったわけよ!
だいたいのところが。
そーゆーグダグダが凄くてね、独占欲強いし。疲れるし。鬱陶しくなっちゃうの。

わかるわかるって、そりゃ共感してくれるのは嬉しいけど。
あたるくん。あんた、隣りにいる愛妻の顔を見てごらんなさい。
ばかね。

ん?なに?
ああ。身代わりってのは、ほら、竜之介くんと似てたから。顔が。
なんだかすっごくライバル視してたみたい。あなたのこと。
そのうち刺されるかもね、竜之介くん。なんて思ってたわ。

やだ、大丈夫よ。竜之介くん、顔、真っ青。
ええ。もうその子はあたしになんか、な〜んの未練もないそうですから。ええ!そうですとも!

そんでその子は、男は恋愛対象になんない子だったの。
でもあたしは、女だけってわけじゃないし。結婚って道も一応あるわけ。
だからね。余計に、強迫観念というかね。嫉妬とか執着とかすごくってもう。

うう〜ん。複雑なのよ。そこらへん。
レズとバイだとねえ〜、時々ねえ〜。あるのよ、なんていうか、偏見が。
そうなのよねえ。まあ、ね。そこらへんは、人それぞれだから。

というか、そんなのどーでもいいのよ!そんなのは!
だからね、あたしが言いたいのはですね。

「オメーが男と結婚してんじゃねーか」

なわけ。わかる?
この、行き場のない怒りが。
だってよ?
散々、あたしのことをバイだからって、罵っておきながら、最後には男ってわけ?
それもこの年になってよ!ありえないわ!

うんそう。
竜之介くんに、ソ〜〜〜〜〜ックリの顔した女だったけどね!
またこのパターンかってかんじよ。
ええ、もちろん竜之介くんのせいじゃないけど。
あ、そうだ。竜之介くん。ご亭主の渚さんはお元気?



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