Top of the World

Such a feelin's comin' over me
There is wonder in most everything I see
Not a cloud in the sky
Got the sun in my eyes
And I won't be surprised if it's a dream

Everything I want the world to be
Is now coming true especially for me
And the reason is clear
It's because you are here
You're the nearest thing to heaven that I've seen

I'm on the top of the world lookin' down on creation
And the only explanation I can find
Is the love that I've found ever since you've been around
Your love's put me at the top of the world


 ラジオから流れてくる柔らかく穏やかな女性の歌声。アルトボーカルがゆったりと幸せな楽曲にのる。晴れ渡った空や太陽、緑を喜ぶ、世界が美しく見える恋のうた。有頂天に舞い上がった女の脳みそが天国へのぼっていったお幸せな、お気楽ご気楽、恋の名曲。
 ラジオをぷちっと消す。ディスクジョッキーは選曲を間違えている、とランは思った。UFOの外では霧雨が降り続いている。雲一つない空どころか、雲で覆われた空だ。
 ランは立ち上がって窓へと歩み寄る。窓の両脇に寄せられたレースのカーテンを中央に寄せる。今日の天気は天気予報によれば、曇り。ところにより雨。どんよりと鉛色の空。そんな天気など見ていたっておもしろくない。
 ランはカーテンの端を掴みうつむいた。宇宙船を打つ雨音は小さい。霧のような雨。時々忘れかけたときに小石がコツコツと当たるような音がする。
「…なんや。ほんまにあっけないわなー」
 ランはカーテンから手を離し、ベッドに腰掛ける。視線の先にあるフリージアは花弁の先が黄ばんでいる。花瓶の水を換えなくては、と思う。
 溜息をつく。動くのが億劫だ。しかしもうフリージアの香りは残っていないし、枯れかけの花を飾るなんて見苦しい。いき遅れた花盛りを過ぎた女になりたくはない。
 大儀そうに立ち上がり、ランは花瓶を持って洗面所に向かう。
「――まあ、ええわい。わし可愛えし料理うまいし気だてもええし。レイさんに限らんと、ええ男がぎょーさんわしに惚れとるんやからな!」
 花瓶からフリージアを抜き取り、ごみ箱に捨てた。花瓶の水を流しにざーっと捨てる。淡く黄緑色に染まった水。フリージアの甘い香りが立ち上った。
「レイさんなんか顔だけや顔だけ!」
 ランはわはは、と笑う。背後の、ドアの開け放たれたバスルームに笑い声が響く。
「しまいには牛に化けよるし、ラムみたいなしょーもない女に未練がましい、意地汚いアホやんけ!」
 花瓶の中に水を注ぎくるくると回す。ちゃぷんちゃぷん、と花瓶の中で水が波打つ。
 ランはケッと悪態をついた。
「わしの魅力もわからんアホなんかのう!アホなんかわしに釣り合わんっちゅーんじゃ!レイさんみたいなアホなん――…」
 花瓶が床に落ち、ガシャン、と陶器の割れるツクリモノめいた悲劇的な音が響く。ランのソックスがつま先からじわじわと濡れていく。冷たい。ぴちょんぴちょん、とステンレスを蛇口から漏れた水滴が打つ。
 ランの頬を一粒の涙が滑り落ちた。

 レイがラムを好きなこと、は未来永劫永久不変な事実だとは思わない。
 いつかレイだってラムを諦めるだろうし他の誰かに恋をすることだってあるだろう。そのときはもしかしたら、ラムですら越えられなかった、”食欲”の壁を越すほどにレイが誰かに恋い焦がれることだって、ないとはいえない。
 そこでランの思考はストップした。
 だからなんだと言うのだろう。可能性がない、とは言えないから?だからそれがもしかしたら自分かもしれないと?
 そう願って何年レイを追いかけてきたのだろう。何年レイがラムを追う姿を見てきたのだろう。
――料理が目当てでもよかったのに。レイさんがあたしを求めてくれるんなら、それがあたしの作る料理だったとしたって、構わなかったのに。
 ランは馬鹿らしくなってわらった。声をあげてわらった。
 なにもかもがツクリモノめいている。
 憂鬱な雨の日。湿気が部屋中をじめじめと陰鬱にして、その部屋で独り言をぼやいて強がったフリをする。それから枯れかけた花がよくあるパターンのオプションで、話の流れとしてその花を捨てる。捨てると花の香りがする。罵詈雑言を思いつくまま口にしてみる。とうとう堪えきれなくなって、手にしていた花瓶を割る。それから見苦しいみっともない後悔があとからあとから。アトノマツリ。
 くだらない。
 ツクリモノめいたものの中でしか、泣き出すタイミングをはかることができない。

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「ランちゃん!開けるっちゃ!ランちゃん!」
 階段を上がる足音が聞こえなかったのは、この雨空をラムが飛んできたからだろう。
 雨の日くらい地面を歩けばいいのに、とランは思う。歩かなければ足の筋肉が退縮して、しまいには歩けなくなるかもしれない。地球の重力に慣れるには機械ひとつで済むけれど、ラムはこのホシにあたると共に暮らしていくことを決めた。
 そんなら地球人らしく振る舞うよう気をつけんかアホ、後で嫌な思いするのは自分やぞと思ってランは頭を振った。恋敵の心配をする必要なはい。
 苛立つ。ラムのことなんか考えたくない。
 ラムが玄関を強く叩いている。どんどん、と拳で打つ鈍い音が雨音を消す。
 ランはベッドの中でうずくまる。耳をふさぐ。
「帰れ!おのれらの顔なんぞ見たないんじゃ!!」
「なに言ってるっちゃ!いいから開けるっちゃ!」
 ドアの向こうで不規則な殴打音が止まる。さあーっと雨音が宇宙船を包む。
 ラムが大きく息を吸う。
「いい加減にするっちゃ!!ケンカするにも相手の話に耳をかさなかったら、ケンカにもならないっちゃ!」
「じゃかあしい!ケンカもなにも、おのれらとは縁を切ったんじゃ!わしはもうおのれらとは何の関係もあれへんのじゃ!」
「そんなのうちだって納得いかないっちゃ!だいたいレイが”ランちゃんに”戻ってきてほしいって言ってるのに、なんでうちを目の敵にするっちゃ!?」
 ランはぴたっと黙った。
 扉の向こうではラムがランの名前を呼び、どんどんと拳を打ちつけている。ラムの軽い殴打音の先から、びちゃっびちゃっ、と雨に濡れた階段を上る足音が聞こえてくる。コツ、と最後の音を鳴らすと足音が扉の向こうで止まる。
 ランは皺くちゃになったシーツをきつく握りしめた。
「…おんどれの言うことなんぞ信用出来るか!どうせ二人してわしをからかいにきたんやろ!惨めで哀れなランちゃんってな!ええからもう帰れっ帰れっ帰れっっっ!!」
 ランは震える手にシーツを食い込ませ、声帯を力の限り震わせた。怒鳴り声が途中、裏返る。喉が痛くて涙が出る。いま咳をしたら声帯が破れて血を吐きそうだ。
 扉の向こうでラムが一層大きくドアを打つ。
「なんでうちがそんなことしなくちゃならないっちゃ!」
「それはなあ、おんどれが昔わしにしたことを思い出してみれば、よーわか……!」

「ラン!」



 世界中の音が消えたのかとランは思った。でももちろんそうじゃない。そんなわけがない。
 世界中の音が消え去るのと同じくらいありえないことだと思っていたことが、もしウソじゃなかったのなら起こったような気がしたから。ああでもやっぱり違うのかもしれない。ランの耳には何も聞こえない。だからこれはツクリモノの世界の続きなのかもしれない。けれどランの心はふわふわとベッドの外へ出ていこうとする。ふわふわふわふわ、扉の向こうへ漂っていこうとする。
 ランはおそるおそるベッドから立ち上がる。世界が音を取り戻す。宇宙船の外では相変わらず霧雨が降り続いている。階段の手すりに溜まった水滴がじれったいタイミングで階段を打っている。
「レイ…さん…?」
 ランは扉に震える手を這わせた。ランの耳に入る微かな雨音。向こうでラムが誰かと何かをしゃべっているのが聞こえる。
「…もうひと…しだ…ちゃ……から、ランちゃ……レイ……って……のけ…」
「………」
 霧雨に混じって低い声はラムの小声以上に聞き取りがたい。
 ランの胸がざわめく。再び耳を閉ざしたくなる。ランは扉から一歩後退して、大きく息を吸った。もう一度、大声で退去を迫ろう。これが最後の通告。大声を張ったらこれっきりで黙りこくろう。雨音に消えていく。
 ランが口を開く。
「いいかげ……!」
「ランっ!!話!ある!」

 風が室内に舞い込み、霧雨にランの手首が、肘から先が濡れた。

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「話って…なに?」
 かちゃかちゃと紅茶とミルクをティースプーンでかき回す。ランの手の動きで紅茶とミルクのウズマキがだんだん細く細く消えていく。
 宙に浮いたテーブルを中央に椅子が三つ、等距離で宙に浮いている。ランはティースプーンをソーサーの上に置いた。顔をあげるとラムが紅茶を啜っていた。
「あの…」
 ランがじっとレイを見つめると、ラムがレイの肘をつついた。レイが腰をかがめてラムの耳元に口を寄せる。
 ランは視線をカップに落とす。うずまき模様はもうすっかり無くなってしまった。
「べつに…いいのよ、気にしなくて。あたし、もうすっかり諦めたから…。レイさんのこと…」
 ランは瞼を閉じ、自嘲を唇に浮かべた。期待するのはやめようと扉を閉めたのに、やはり扉を開けるべきではなかった。
 ラムもレイも何も言わない。ランが不思議に思って視線を上げると、ラムとレイはお互いに顔を寄せ合ってヒソヒソ話していた。
 ランは唇の端をひくひくと痙攣させながら微笑む。
「ランちゃんね…ラムちゃんとレイさんが幸せなら別に、邪魔する気はないんだけどね…」
 ランはガタっと立ち上がり、テーブルに拳を叩きつけた。三つのカップがソーサーから浮き上がり、ティーポットの注ぎ口とカップから紅茶が大きく飛びはねる。
「イチャイチャするんやったら外でやらんかいっ!!おのれら、どーゆー神経しとんのじゃっ!!だいたいラム!おんどれ、やっぱりわしをからかいに……!」
「ランちゃん。レイの伝言だっちゃ」
 ラムは憤ったランに慌てもせず、組んだ両手をきちんと揃えた膝の上に載せてランを見上げた。ラムの真っ直ぐにランを見る目の強さには、後ろめたさのカケラも混じっていなかった。
 ランはラムに遮られた言葉が喉につかえ、ごにょごにょと語尾を濁して椅子に座る。
 いつだってわかっていた。被害妄想を繰り広げることが唯一の防御だったのに、それを認めてしまえば、つくろった女らしさや繊細さなんかじゃない、取り返しのつかない脆さが大きな傷をパックリと広げてしまうから。
 ランは諦めて小さく深呼吸した。
「なあに」
 ラムが嬉しそうにニッコリと微笑みかける。ランは微笑み返し、テーブルに飛び散った紅茶を布巾で拭いた。レイの手前まで手を伸ばすと、レイが自分の分のティーカップとソーサーをテーブルからどかした。ランは「ありがとう」と微笑み、素早く拭いた。レイは頷き、ティーカップを置くとまたラムに耳打ちした。
 ランは布巾を裏返して畳んだ。
「うちがここに来たのは、レイに頼まれたからだっちゃ。恥ずかしくてランちゃんに直接言えないから、うちに伝言してくれってレイが言うから来たっちゃ」
「わかったわ」
 ランが素直に頷くとラムは一瞬変な顔をした。ラムがランを覗き込む。レイはいつのまにか牛になっていた。
「ランちゃん、ほんっと〜〜に納得したのけ?」
「したわよ?」
 ラムは眉間に深く皺を寄せると小声で「不気味だっちゃ…」とつぶやいた。ランは聞こえなかったフリをして紅茶を一口飲んだ。ミルクを入れすぎたようだった。
「と、とにかくそういうわけだっちゃ!うちとレイの間に、なんのやましいことはないっちゃ。それだけはうちからもレイからも、断っておきたくて…」
「わかってるわ」
 ラムの言葉を遮り、ランは話の先を促す。ラムが咳払いをする。レイがもぞもぞと大きな体を揺らした。
 ラムが「じゃあ言うっちゃ」と口を開くと、レイが「ぶっぶもっ」とラムに向かって鳴く。ラムは目を吊り上げて「なに言ってるかわからないっちゃ!」とレイに怒った。
 レイはしゅるるるる、と人間型になるとラムに耳打ちし、またすぐに牛の姿になった。レイは小さな椅子の上に座り、大きな体をなるべく小さく見せようと縮こまった。
 ラムが呆れたように溜息をつく。ランはティーカップの取っ手をずっと握りしめていた。なにかを掴んでいたかった。ラムがランを見つめる。
「ランちゃん言うっちゃ」
 ランが頷くのを確認して、ラムは続ける。
「『ランが離れていってわかった。ランがいないと生きていけない』…だそうだっちゃ!ランちゃん!」
 ランは驚いてカップをソーサーの上に落とす。がちゃん!と音を立てて、しかし割れはせずに紅茶を飛び散らしてカップは着地する。
「ちゃっ!」
 ラムが慌てて飛んできた紅茶を避ける。
「ほ、ほんとに…?レイさん……!」
 ランの大きな瞳にじんわりと涙が浮かび上がってくる。ラムは嬉しそうにレイとランをニコニコ眺めている。レイは大きく頷くと、また人間型に戻ってラムの耳元に口を近づける。
「おまえ、いい加減自分で言うっちゃ!」
 ラムがレイの顔をぐいっと押しのけようとすると、ランが反対側からぐいっとレイの頭をラムに押しつけた。
 レイの端正な顔が無様に潰れる。頬はぐにゃりと前方へ向かって押し出され、それに伴って上下の口唇がタコのように突きだしている。依然きりっと切れ長の涼しげな目だけが、彼が男前である唯一の証拠としてそこに存在していた。
「な、なにするっちゃ!?ランちゃん!」
「いいから!いいの!お願い、ラムちゃん。伝言を続けて!」
 ラムがランを見上げると、ランは目尻に光る涙を拭いて微笑みかけた。
「レイさんの口から聞いたら、あたし、気絶しちゃうかもしれないから…」
「ランちゃん…」
「だからお願い!ラムちゃん、続けてほしいの」
 ラムは健気なランに「わかったっちゃ」と頷いた。ランは震える手で零した紅茶をまた布巾で拭く。うまくふき取れなくてランは何度も同じ箇所を往復して拭いた。
 レイがラムに耳打ちする。ラムはレイの言葉をそのまま伝えようと口を開く。
 宇宙船の外からはもう雨音は聞こえない。
「『ランがいないと死んでしまう』…ふんふん」
 ラムはレイの耳打ちに頷きながら言葉を伝える。ランはラムに耳打ちするレイの横顔をじっと見つめ、時々耐えかねたようにうつむく。
「『ランが毎日おいしい食べ物を作って…』……もうプロポーズけ?気が早いっちゃ……」
 ぼそぼそとレイがラムに耳打ちする低い声が、ランの鼓動を支配する。
「『ランが食べ物を持って来てくれないと、食べ物がなくなって困る』……ん?…『飢えて死んでしまう…』…ってレーイ!!!そんな理由で……っ!」
 ラムはガタリと立ち上がり、レイに詰め寄る。レイは小首を傾げ、戸惑ってラムを眺めている。
「レイッ!おまえってやつは……!」
「いいの!」
 ランはレイの前に立ちはだかったラムの腕を取った。ラムはレイに掴みかかろうとしていたところだった。ラムはランへと振り返る。レイはわけもわからず、ただきょとんと座っている。
「ランちゃん!だってレイのやつ…!」
「いいの。いいのよ、ラムちゃん」
 ランが静かに首を振る。ラムは振り上げた腕を下ろしてじっとランを見つめる。その瞳に同情が色濃く浮かんでいるのを、ランはよくわかっていた。
 きっとラムも同じような思いをしたのだろう、とランは今頃になって、ラムがレイに恋していた頃の苦労を推し量ることが出来た。それまでラムが苦労して傷ついたことなど、気遣ったことがなかった。
「たとえレイさんの一番ほしいものがあたしじゃなくて、食べ物であってもいいの。レイさんがあたしの作る料理を求めてくれるのなら…。そのためにあたしを選んでくれるなら、それでいいの」
「ランちゃん…」
 ランがそう言うと、その後ろでぼうっと二人の会話を眺めていたレイが立ち上がった。
「レイさん…」
 ランはラムから手を離すと胸元で両手を組み、レイを見上げた。ラムはそっとUFOの出口へと向かう。レイは立ち去るラムに振り返らない。レイの視線の先にはランがいる。
「あたし、これからもずっとレイさんにおいしいものを作り続けるわね!」
 ランはにっこりと微笑む。レイがみるみる牛になる。
 ラムは静かに玄関の扉を開いた。興奮すると牛に変身するレイの体質は、役に立つことは少なかったけれど、感情を正直に表すバロメーターみたいだ、とラムは思った。
「らん!」
 音もなく扉を閉める。ラムはドアノブから手を離すと、扉の隙間から最後にちらりと映った、牛と美少女がしっかり抱き合う姿に微笑んだ。



 空に体を投げ出すと、素肌に湿った空気がまとわりついた。雨はもうあがっている。向こう側に流れていった灰色の雨雲を眺め、ラムは愛する男の待つ家へと急ぐ。
「幸せになってくれるといいっちゃね」
 風が流れるたびに木々は濡れた葉を揺らし、水しぶきがラムの体に舞う。ツバメが電線に止まり、電線を伝う水滴がぽつぽつと垂れ落ちる。
 鼻歌を歌って低空飛行。レイがランをしっかり抱きしめていたように、家に帰ったらあたるにしっかりと抱きしめてもらおう、とラムは思った。きっとあたるは嫌がって素直に抱きしめてくれないだろうから、なにか手をうたなければ。
 それからランとレイがうまくいったことを報告しよう、と思いつき、ラムは顔をしかめた。きっとあたるは喜ばないだろう。

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 ラムがあたるの部屋に戻り、レイとランのことを聞かせると、あたるはラムの予想通り嘆き悲しんだ。
「しかし…。パブロフの牛じゃな!」
 あたるが腕を組んでそう言うと、ラムも「だっちゃ」と頷いた。
 それからあたるは声には出さなかったが、「でもうまくいってよかったっちゃ!」と無邪気に喜ぶラムの隣りで、レイとランの二人の行く末を想像した。
――レイのやつはバター牛になるんだろうか…。
 その光景を想像すると、劣情と共に、ランへの憐憫があたるの胸にわき起こった。
 あたるが深刻な顔をして立ち上がる。腕を組んでうんうん唸っていたあたるが突然立ち上がったことに、ラムは驚いた顔をしてあたるを見上げる。
「ダーリン、どうしたっちゃ?」
 あたるがくっと短く嘆く。
「いかん!いかんぞ!蘭ちゃんっ!早まっちゃだめだっ!おれならっ!おれならそんな邪道な手を使わんでも、きみの愛にこたえられるのにっ!!」
 拳をつくって叫ぶあたるをラムが不機嫌な顔で眺めた。
「ダーリンはうちを愛せばいいっちゃ!」
 水滴で囲われた窓枠から覗く空は、ひとつの雲もなかった。

Something in the wind has learned my name
And it's tellin' me that things are not the same
In the leaves on the trees and the touch of hte breeze
There's a pleasin' sense of happiness for me

There's is only one wish on my mind
When this way is through I hope that I will find
That tomorrow will be just the same for you and me
All I need will be mine if you are here

I'm on the top of the world lookin' down on creation
And the only explanation I can find
Is the love that I've found ever since you've been around
Your love's put me at the top of the world

(Carpenters, "Top of the World")




-end-


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