ランちゃんが宇宙一、幸せになる日

 今日、ラムちゃんとダーリンが結婚式をした。
 ラムちゃんは純白のドレスに身を包んで、綺麗だったわ。目にいっぱい涙ためて。ヘラヘラ笑うダーリンに寄り添ってた。
 でもダーリンったら、いつもみたいに、友人席に飛んでいって、ガールハントし始めちゃって。おかげで式はめちゃくちゃだし、ダーリンが着てたモーニングもラムちゃんが着てたドレスも、ぜーんぶ真っ黒焦げになっちゃったの。
 ランちゃん、いやんなっちゃった。
 ランちゃんが結婚式するときは、絶対ラムちゃんとダーリンを呼ばないことにしようっと。

「ね?レイさん」
「ぶも?」
 やーね、レイさんったら。
 ランちゃんが、そのおっきなヨダレ、ふいてあげるわ。
「ぶいぶいぶい」
 ほうら。キレイになっちゃった。
 レイさんって、ほんとに器用ね。目からヨダレ垂らすなんて。
 ランちゃん、びっくり。
「ぶきー!ぶきー!ぶきー!」
 やあだ、レイさん、またヨダレ垂らしちゃって。
 ううん。
 ランちゃんったらウソついちゃった。ランちゃんったらいけない子。
 レイさんだったらちっともイヤじゃないもん。ランちゃん、レイさん大好きだもん。
 ね、ランちゃん、拭いてあげる。
 ちょっとだけじっとしてね。
「ぶきききききっ!!!ぶきー!」
 いやん、レイさん、どうしてランちゃんのハンカチ捨てちゃうの。
 レイさんの大好きなあまーいコロンもつけてあるわ。なのにどうして?

「ぶきっ…ぶき………ぶきー…………っ……」

 ランちゃん悲しい。
 レイさんったら、お空ばっかり見てるんだもの。
 ランちゃん、悲しくて泣いちゃう。





 ………。

 ほんま、やっとれんわ。あほう。



 いつだったか、ラムが言っとった。
 異星間の結婚は難しいんだと。
 わしには、よーわからんかったけど、ラムのアホ、わしの宇宙船でボロボロ泣き崩れよって。説明もせんと泣きくさって。

「ランちゃん、うち…、うち…。どうしたらいいっちゃ……?」じゃと?
 あほか。わし心読める力なんかあらへんねん。
 何のことかわからんものを、なにを言えちゅうんじゃ。
 おまえこそ、わしにどないせいっちゅうんじゃ。
 せやけどな。わし心広いからな。ゆうてやったんじゃ。

 わしは肺いっぱい空気吸って、ラムを睨んだ。
「ほお…。ラム。ピンときたで…」
 目を細めてラムを睨みつけると、ラムは元々吊り上がっとる目をさらに吊り上がらせよった。
 ふん。鬼娘が。
 わしが次に言おう思てる台詞、予想ついとるやろ。
「おんどりゃ、そないゆうてダーリン捨てて、レイさんとヨリを戻す気やな!!読めたで!!ラム!」
 わしだってわかっとるわい。おんどれが考えることなんぞお見通しじゃ。ラムが何ぬかすかなんてな。
 わかっててやっとるんじゃい。
 今回に限ることやない。いつもそうやったんじゃ。
 わしだって、わかっとったわ。ぼけ。

 わしがピエロやって、言われんでも知っとったわ。

「なっ……!なに言ってるっちゃ!!うちが好きなのはダーリンだけだっちゃ!!!!ダーリン以外の男と結婚する気なんかないっちゃ!!!!!レイなんか問題外だっちゃ!!」
 ほれ見い。結局、答え出とるやんけ。アホらし。
 そない肩怒らせんでも、最初っからわかっとるやんけ。
「ランちゃん、いい加減にするっちゃ!レイのことなんか、うち、全然好きじゃないっちゃ!こんなにうちが悩んでるのに………。ランちゃん、ひどいっちゃ!!」
 ほお、誰がヒドイんやて?
 わし、忘れたことなんぞあれへんで。
 おまえにされた数々の所行。
 長年の恨み、忘れたことなんぞ、いっぺんたりともないんじゃ!!
「うち…うち……。ランちゃんなら、わかってくれると思ったっちゃ……。いつもはランちゃん、うちに怒ってばっかりだけど、いざとなったら力になってくれると思ってたっちゃ……幼馴染みの大切な親友だと思ってたっちゃ…………!!」

 ラムはダーリンとの結婚話がうまく進まんことで、溜めに溜めてたフラストレーションを爆発させて出ていきよった。
 わしの宇宙船はラムの電撃のおかげで二週間使いものにならんかった。キッチンだけは、なんぼか動くほどには無事やったけどの、いつも通りにはいかん。
 おかげでレイさんに差し入れするのも、一苦労やったやないけ。
 その上ラムのやつ。捨てぜりふまで吐いていきよった。

「もうわかったっちゃ」
 ふん。なにをわかっとるっちゅーんじゃ。
 なんも知らん、底抜けの脳天気のくせしよって。
「うちが何を言っても、ランちゃんは信じてくれないっちゃ。うち………。ダーリンと結婚するまでランちゃんに会わないっちゃ!!」
 ほー。せいせいするわ。
 勝手にダーリンと結婚でもなんでもせい。
 ほんで勝手に二人でよろしゅうやっとれ。わしの前に二度とそのアホ面見せるな。アホ。
 ええか。二度とやで。
 二度と、らしくないツラ下げて、わしの前に現れるんやないで。

 そない言いよって、ラムは壊したわしの宇宙船残して飛んでった。



 それが、なんや。
 結局うまいこといったやないか。

 ほんま、救いようのないお気楽娘じゃ。
 わしが修理代、請求せんかったのをいいことに、なんの気後れもせんと
「この度、私たち二人は結婚式を挙げることになりました。つきましては〜(略)〜ご多用中、誠に恐縮ではございますが、是非ご出席くださいますようご案内申し上げます。 P.S.絶対来るっちゃよ!(ラム)」
 ぬわ〜んて、ぬかしよった!
 ええ度胸しとるの〜。ラム!

 ほんまにわし、アホやないか。

「ランちゃん…。うち勘違いしてたっちゃ……。ランちゃんがうちに葉っぱかけてくれなかったら、うち、あのままウジウジしたまんまだったっちゃ。ランちゃんのおかげだっちゃ!」
 ラムはわしの手をギュっと握って涙ぐんどった。
 その隣りでアホが、神妙な顔して突っ立っとった。アホが真面目な顔すると、気色悪いわ。
「蘭ちゃん。ありがとう。おれからも礼を言うよ」
 なんじゃい。気色悪い。
 そもそもアホがオフホワイトのモーニング姿っちゅうところからして気色悪いんじゃ。
 こーいうフォーマルは、レイさんみたいな男前が着てこそキマルっちゅうもんなんやで。

「きゃ。ランちゃんも嬉しい」
――だって、レイさんはもうあたしのものだもの。
 ラムちゃんが
「ランちゃん………!大好きだっちゃ!!ランちゃんはうちの大事な親友だっちゃ!!」
と抱きついてきた。
 ダーリンがラムちゃんの真似っこして、ランちゃんに抱きつこうとしたから、ラムちゃんと一緒にダーリンを懲らしめちゃった。





 ほんま、やっとれんわ。あほう。

 ダーリンと結婚したからって、なんじゃい。
 やっとラム、おまえの魂胆わかったわ。ほんっま卑怯なやっちゃな。わし、ちいとも気づかんかったわ。
 ダーリンと結婚して、永遠にレイさんの心の中留まろうちゅう寸法やったんやな。
 そらそうや。
 ヒトのもんなったものほど欲しくなるもんはない。それもラムは昔、レイさんと婚約しとったんやからな。
 ラムの本性がなんぼ悪くても。ラムがたいしたことあれへん女でも。
 レイさんにしてみれば、自分のもんやった女が、今は他の男のもんなんや。欲しくて仕方あれへんやろ。相手がラムやのうても、それは代わりきかんやろ。
 わし、アホやないか。
 レイさんの執着心、煽っただけやないけ。ラムの手助けしただけやないけ。

 ラムが何もせんで引き下がるわけがあってたまるかいっちゅーこっちゃな。今回だけは読まれへんかったわ。汚いわ。
 ほんまにわし、アホやないけ。

****

「レイさん」
 ランちゃんがレイさんを呼んでも、レイさんはぶいぶい泣いて、振り返ってくれなかった。
 だからランちゃんは右手に提げたバスケットからタイヤキを出したの。
「レイさん」
 しゅるるるるる
 レイさんが牛から人間に戻る。
「ラン!」
 ランちゃん嬉しい。
 やっとレイさんがこっち向いてくれたんだもん。
「レイさん、おいしい?」
「うん!」
 きゃ。やっぱりレイさんってステキ。
「レイさん、タイヤキ好き?」
「うん!」
 レイさんの笑顔、す・て・き。
 ああん。ランちゃん幸せ!
「ランちゃんが買ってきたタイヤキ、好き?」
「うん!」
 ごっくん。
 ランちゃん。ちょっとはしたないけど、ごっくん、ツバのんじゃった。
 ううん。ちがうの。ちがうの。タイヤキが食べたかったわけじゃないのよ。

「ランちゃん買ってきたの。好き?」

 ランちゃん買ってきたのはタイヤキ。
 ランちゃん買ってきたの、タイヤキ。
 ランちゃん買ってきたの。

 ランちゃんの胸はドキドキドキドキ。
 鼓動が高鳴って、とってもいたい。
 ねえ、レイさん。タイヤキ買ってきた、ランちゃんのこと…。
 好き?

「うん!」



 あたし、もう死んでもいい。






 レイさんは大きな牛の姿になった。ランちゃんの買ってきたタイヤキに顔をつっこんで食べてたの。
 ランちゃん、幸せ。

「……………………ンちゃあ〜ん!」

 なにかしら?
 ランちゃんを呼ぶ声がした気がするけど。
 気のせいかしら。

「ラーンちゃ〜〜〜〜ん!」

 あら?
 ラムちゃんだわ。どうしたのかしら。

「間に合ってよかったっちゃ!」
「ど〜したの?ラムちゃん」
 ラムちゃんったら、そうとう慌ててたのね。
 せっかくキレイに編んでた髪がほどけちゃってるわ。それにドレスも真っ黒け。
 きゃ。違った。
 ドレスはもともと真っ黒だったわね。
 ヒドイ式のおかげで。うふ。

「はい!忘れ物だっちゃ!」

 そう言ってラムちゃんがあたしに渡したのは、ウェディングブーケ。
 アイボリーホワイトのバラとホワイトジャスミンのラウンドブーケ。
 式の最後は、あんなにひどいことになったのに。ラムちゃんのウェディングドレスさえ、真っ黒になったのに。
 真っ白なウェディングブーケは真っ白なまんま。
「ブーケは絶対ランちゃんに渡そうって思ってたっちゃ」
 ラムちゃんはニコニコと笑った。
 あたし…あたしはなんにも言えないで、ラムちゃんの顔を見てた。
 きっとあたし。泣きそうな顔してるわ。
「でも、式の最後、あんなふうになっちゃって…。ブーケ投げるどころじゃなくなったっちゃ」
 ラムちゃんがエヘヘ、と苦笑いする。
「ラムちゃん…」
「うち、絶対ランちゃんには幸せになってほしいっちゃ」
 だめ。ラムちゃん。
 あたし、本当に泣いちゃう!

「ランちゃんは泣き虫だっちゃね……」

 誰のせいだと思っとるんじゃ。あほ。
 おまえのせいじゃい。ラム。
 おまえのせいじゃい。

「だ、だってえ……。ランちゃん、う、嬉しくって……。ひっく」

 ラムちゃんがヤレヤレと言った。そしてはにかむ。
 ラムちゃんの笑顔、あたし、好きよ。
 それから、ラムちゃんはタイヤキを食べてるレイさんの方を振り返ったの。

「こらっ!レイ!!」
 ラムちゃんが目を吊り上げて、レイさんに怒鳴った。
 ラムちゃんは両手を腰にあてて仁王立ちのポーズをとったわ。

――わし、ピンときたんや。
 ラムが何もせんと、引き下がるわけあれへんかったんじゃ。

 レイさんがタイヤキの入ったバスケットから顔をあげたの。
 きっとレイさんが今まで、ラムちゃんがいたことに気づいてなかったんだわ。
 レイさんはラムちゃんより、ランちゃんの買ってきたタイヤキに夢中だったんだわ!
 ランちゃん嬉しい!
「いつまでも意地汚いことばっかりしてないで、おまえがランちゃん幸せにするっちゃ!いいっちゃね?」
 そしてレイさんは言ったの。





「らむ!」
 満面の笑みで。

-end-


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